2021年10月に内閣総理大臣に就任した岸田文雄氏が掲げる「新資本主義」とはなんでしょうか?
首相官邸のHPには主要政策として「新しい資本主義」が掲げられています。
また、内閣官房には「新しい資本主義実現本部」が設置されており、「新しい資本主義実現会議」が定期的に開催されています。
2022年6月7日に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が閣議決定されました。このうち「人への投資と分配」の施策のひとつとして「貯蓄から投資への資産所得倍増プラン」を策定するとしています。
この段階では「新しい資本主義実現会議に検討の場を設け、本年末に総合的な資産所得倍増プランを策定する」とありますが、ざっくりとしたグランドデザインは示されています。
現在の日本では
- 金融資産2,000兆円のうち、半分以上が預金・現金で保有されている。
- この結果、20年間の家計金融資産は米国の3倍、英国の2.3倍に対し、日本では1.4倍である。
- 家計が豊かになるため、預金が投資に向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計におよぶ好循環を作る必要がある。
預金を投資に向かわせるために
- NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を図る。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革を計る。
- 子供世代が資産形成を行いやすい環境整備などを図る。
そのほか、
- 高校生や一般の方に対し、金融リテラシー向上に資する授業やセミナーの実施等による情報発信を行う。
- 将公的年金シミュレーターを本年4月に導入したが、民間アプリとの連携を図り、私的年金や民間の保険等を合わせた全体の見える化を進める。
とあります。
NISA制度とiDeCo制度の拡充はよい方策だと思います。
政府にとって手の付けやすく、かつ効果も高く、国民からの評価も得やすい施策です。
NISA制度の「拠出上限を広げる」ことと、「非課税期間の撤廃または延長」は必ず盛り込んでほしいところですね。選択可能な投資信託の拡充なども良さそうです。
iDeCoでも「掛金の上限を広げる」ことはしてほしいところ。
しかし、金融資産の半分以上が現金・預金であることが米英と比べて家計資産が伸びなかった理由としていることは、少し卑怯かなと。
もちろん、要因のひとつではありますが、それだけではないだろうと。成長せず、賃金も伸びず、少子化が進んでいること、それらを放置してきた政府の失策も要因でしょう、と。
あとは「iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革を計る」の前提に「現預金の過半を保有している高齢者に向けて、就業機会確保の努力義務が70歳まで伸びていることに留意し」とあるのが違和感。
iDeCoは年金なので、老後に備えた資産形成として利用を伸ばす意義は分かります。でも、現預金の過半を高齢者が保有していることと、就業機会確保の努力義務年齢が伸びていることとはあまり関係ないのでは。
高齢者が現預金の過半を保有しているなら、それを有効活用する施策を出すべきです。そして、就業年齢が伸びて年金を受け取る期間が減るのであれば、むしろiDeCoの有用性は減るのでは・・・と思います。
とはいえ、金融課税の強化よりも先にやるべき政策であることは間違いないので、今後の進展を待ちたいと思います。
同じ「人への投資と分配」の施策として「子供支援、子育て支援」のグランドデザインも示されています。
「出世払い型奨学金の本格導入」「保育・放課後児童クラブの充実」「子育て世代の住居費の支援」など。
出世払い型の奨学金は「在学中は授業料を徴収せず、卒業後の所得に応じて納付を可能とする新たな制度」を検討するとのこと。
これについては、卒業後の勤労意欲を阻害するといった意見も出ています。個人的には、将来の見通しがしずらい現代においては有りな制度だと思います。
ほかには、これまでも議題にはあった「非財務情報開示の充実、四半期開示の見直し」もありました。骨太の方針2022でも示されています。
四半期報告書を廃止して、四半期決算短信への「一本化」が検討されています。今年中に⾮財務情報の開⽰ルールの策定、四半期開⽰の⾒直し、とあるので、いずれこれは実現しそうな感じがします。
なお、四半期報告は米国では義務化されていますが、欧州では任意です。米国でも任意化の議論はあるようです。
当ブログ的には「中長期の目標に対する進捗度を確認するためには四半期開示は必要」という見解ですが、短期の決算で振られる株価を見ていると、悩ましいところ。