2022年6月30日にドル円は137円の円安ドル高水準を突破しました。
年初から比べて20%以上の円安になっています。
140円は射程圏内と思われ、近く150円も突破するのでは、という状況です。
今回のコラムでは「為替レートの変動要因」について語ってみようと思います。
中央銀行の口先介入や経済指標の発表を受けての突発的な為替変動ではなく、中長期的な観点で為替レートの変動要因を考えます。
今回、急速に進んだ円安ドル高は一時的なもので終わらず、今後ある程度の中長期(数年~)にわたって継続性があると考えています。
為替相場は最終的には受給で決まります。
つまり、需要(買いたい)と供給(売りたい)のバランスです。
ドル円が急激に円安ドル高に進んでいるのは、つまるところ「ドルを買いたい」「円を売りたい」と思っている人が多いということです。
為替レートを動かす要因は、ざっと並べるとこんな感じです。
変動要因 | 説明 |
---|---|
金利と金融政策 | 金利が高いほど、通貨高になる。 |
貿易収支 | 貿易収支が黒字になると、通貨高になる。 |
物価 | 物価が上昇する(インフレ)と、通貨安になる。 |
地政学的リスク | 地政学リスクが高いと、通貨安になる。※当該国の通貨 |
資源価格 | 資源価格が上がると、通貨高になる。※資源国の場合 |
当たり前ですが、複数の要因が複雑に絡み合うので、上記は「一般的には」というレベルです。
また、もちろんそれぞれの通貨、通貨ペアでも変わります。
たとえば米ドルから見ると、一般的な地政学的リスクは通貨高の要因です。いわゆるリスク回避のドル買いが発生するためです。
日本は資源国ではないので、資源価格の上昇は円相場にそれほど影響はありません。オーストラリアは資源国なので、豪ドルにとって資源価格の上昇は通貨高の要因です。
ドル円への影響が大きいのは「金利(金融政策)」と「貿易収支」だと思います。
金利と金融政策
世界的にインフレ対策へ舵を切る中央銀行が多いのに対し、日銀は一貫として現在の強力な金融緩和を継続する姿勢を示しています。
2022年6月の会合でもYCCを含めた強力な金融緩和の継続を決めました。
YCC(イールドカーブ・コントロール)とは長短金利操作のことで、日銀は長期金利の指標である10年国債を0.25%の利回りで無制限に買い入れる指し値オペを実施しています。
国内外で債権が売られて金利が上昇したら、日銀が無制限に債権を買って金利が0.25を超えないように押さえつけるというわけです。
新型コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻に起因する世界的なインフレで、日本も金融緩和政策を修正せざるを得なくなるとの見方がありましたが、日銀は2022年6月の会合でこれを完全に否定しました。
米国は年度内は金利を上げ続けるという見方が強いので、日米金利差は開き続ける見通しとなっています。
次の図は、米国債10年利回りから日本債10年利回りを引いたチャートです。
米国金利は利上げとQT(金融引き締め)で金利が上がっているのに、日本の金利は上昇を抑えられているため、金利差が開いています。
また、日銀が債券を買うということは、日本円を増刷してばらまくということなので、円の量も増えます。
円が増えるとその価値が希釈されるので、円安になるという側面もあります。
- 日米の金利差が大きくなり、円を売ってドルを買う動きが強まり円安ドル高になる
- 日本円がばらまかれるので、価値が希釈されて円安になる
ちなみに、各会合の内容は日本銀行のホームページから見ることができます。
貿易収支
経常収支、とくに貿易収支も為替変動の要因です。
ただ、タマゴが先か、ニワトリが先か、のような面もあるとは思います。
一般的に、輸入が輸出を上回る貿易黒字の場合は通貨高に、貿易赤字の場合は通貨安の傾向がみられます。
日本と米国の貿易は長く貿易黒字が続き、貿易摩擦が問題となってきました。
日本円の円安誘導が米国にとっての貿易赤字の要因となっているとして、米国大統領から円安政策が批判されたこともあります。
2021年の貿易収支は赤字額が拡大し、赤字額が過去4番目の大きさだったとのこと。
これはロシアのウクライナ侵攻が原因でエネルギー価格が上昇したことも大きな要因でした。
日本は原油、ガス、石炭などの燃料のほとんどを輸入に依存しているので、エネルギー価格の上昇が輸入価格を押し上げたためです。
また、農作物や飼料などの価格も高騰し、これらも輸入価格を押し上げています。
一方で、米国の貿易赤字も拡大しています。
日本経済新聞の記事によれば貿易収支の赤字は初めて1兆ドル(約115兆円)台に達し、過去最大を更新したとのこと。
ただし、外務省の資料によると、米国の対日貿易赤字は5.5%ほどで、年々減少の傾向とことです。
日本から見ると貿易黒字額が減少ということになるので、貿易収支の観点でも円安ドル高の方向性かと考えています。